VSOLJニュース(335) 小嶋さんが明るい重力マイクロレンズ現象を発見 著者:前原裕之(国立天文台) 連絡先:h.maehara@oao.nao.ac.jp 新星の捜索を熱心に行なっている群馬県の小嶋正(こじまただし)さんによって、 おうし座の中に発見された変光星 TCP J05074264+2447555 は、その後の 調査により、非常に珍しい明るい重力マイクロレンズ現象であることが明らかに なりました。小嶋さんは2017年10月31.734日(世界時、以下同様)に焦点距離 135mmのレンズとデジタルカメラでおうし座を撮影した画像から、10.8等に 増光している天体を発見しました。この天体は、9月2日と10月25日に撮影した 画像にもそれぞれ13等と11.7等で写っていること、この天体の位置にはUSNO カタログにRバンドで13.6等の天体あることから、最近になって明るくなった 天体であることが分かりました。 この天体の位置は 赤経:05時07分42.72秒 赤緯:+24度47分56.3秒 (2000.0年分点) です。 超新星のサーベイを行なっているAll-Sky Automated Survey for Supernovae (ASAS-SN)の観測によると、この天体はもともと14等ほどでしたが1ヶ月ほど前か らゆっくりと増光を始め、10月19日には13.2等、発見直前の10月28日から30日に は1日に0.2等のペースで急速に増光していたことが明らかになりました。星がこ れほど明るくなるということは、何かしらの爆発現象が起きていることが予想さ れます。ところが、この天体では増光の前後で色の変化がないこと、国立天文台 岡山天体物理観測所などで撮られたこの天体のスペクトルは、通常のF型主系列星 のものであることが分かりました。また、ガンマ線バースト観測衛星のSwift衛星 に搭載されているX線望遠鏡と紫外・可視望遠鏡による観測で、この天体の位置に X線で明るくなっている天体は存在せず、紫外線での増光幅と可視光線での増光幅 がほとんど同じであることが分かりました。 色やスペクトルが一切変化せずに明るさだけが増加する、という現象は、星と私 たちの間にある別な天体が、その星と重なった時に起こります。星からの光が手 前にある別な天体の重力によって曲げられることで明るくなるのです。このよう な現象は、重力マイクロレンズ現象と呼ばれ、銀河系の中心方向の星や、大小マ ゼラン銀河の星をターゲットにしたプロの天文学者による捜索が行なわれており、 これまでにも暗い例は数多く発見されています。しかし、11等級という明るさの ものは、これまで知られている中では2006年10月に多胡さんによってカシオペヤ 座の中に発見され7.5等まで明るくなった重力マイクロレンズ現象(vsolj-news 162) に次ぐ明るさで、非常に珍しい現象であると言えます。 これまでの観測によると、この天体は11月1日ごろに11.5等ほどまで明るくなっ た後減光を始めており、今後1ヶ月程度かけて元の明るさに戻ってゆくと思われま す。しかし、手前にあるレンズ天体が惑星を持っている場合には、その惑星の重 力レンズ効果によって、減光の途中で小規模な増光が起こる可能性もあり、今後 の詳細な観測が望まれます。 2017年11月4日 参考文献 CBAT "Transient Object Followup Reports" TCP J05074264+2447555 Maehara 2017, ATel #10919 Sokolovsky 2017, ATel #10921 Jayasinghe, et al. 2017, ATel #10923 ※この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開 等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典 を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、 VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利 です。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。 なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。 |
2017年11月04日